承知いたしました。 ルカによる福音書20章1-8節のギリシャ語原典テキストについて、一節ずつの翻訳と詳しい文法的解釈、そして語彙と文体の特徴を以下に記述します。 原文テキストはNestle-Aland 28版(NA28)を参考にします。
ルカによる福音書 20章1-8節
導入
この箇所は、イエスがエルサレム神殿で教えていた際に、祭司長、律法学者、長老といった当時のユダヤ教指導者たちが、イエスの権威の源について問い質す場面です。 イエスは直接的な答えを避け、逆に洗礼者ヨハネの権威について問い返すことで、彼らの問いに巧みに応答します。 ルカはこの論争物語を通して、イエスの権威が神に由来すること、そして反対者たちの不信仰と自己保身を描き出しています。
セクション1
- 原文 (NA28): そして、ある日、彼が聖所で人々に教え、福音を宣べ伝えていたとき、祭司長や律法学者たちは長老たちにひれ伏しました。
- 翻訳: そして、それらの日々のうちの一日に、彼(イエス)が神殿で民を教え、また福音を告げ知らせていたとき、祭司長たちと律法学者たちが長老たちと共にやって来て、
- 文法的解釈:
- Καὶ ἐγένετο ἐν μιᾷ τῶν ἡμερῶν ἐκείνων: 「そして、それらの日々のうちの一日に起こった」。 ルカによる福音書や使徒言行録で頻繁に見られる導入句。 (egeneto) は (ginomai, 起こる、なる) のアオリスト(過去の出来事を一点として示す時制)中動相直説法3人称単数。 は時間を示す前置詞句。 「ある日」という意味合い。
ἐγένετογίνομαιἐν μιᾷ τῶν ἡμερῶν
- διδάσκοντος αὐτοῦ τὸν λαὸν ἐν τῷ ἱερῷ καὶ εὐαγγελιζομένου: 「彼が神殿で民を教え、また福音を告げ知らせていたとき」。 これは「属格独立構文」 (Genitive Absolute) と呼ばれる構文で、主文の状況(時)を表します。 (didaskontos) は (didaskō, 教える) の現在能動分詞属格男性単数。 (autou, 彼の) がその意味上の主語。 (euangelizomenou) は (euangelizomai, 福音を告げ知らせる) の現在中動/受動分詞属格男性単数で、 と並列されています。 ルカは を好んで用います。
διδάσκοντοςδιδάσκωαὐτοῦεὐαγγελιζομένουεὐαγγελιζομαιδιδάσκοντοςεὐαγγελιζομαι
- ἐπέστησαν: 「やって来た、立ち向かった、不意に現れた」。 (ephistēmi, 立つ、現れる、襲う) のアオリスト能動直説法3人称複数。 文脈によっては敵対的なニュアンスを含むことがあります。 ルカが好む動詞の一つです。
ἐφίστημι
- οἱ ἀρχιερεῖς καὶ οἱ γραμματεῖς σὺν τοῖς πρεσβυτέροις: 「祭司長たちと律法学者たちが長老たちと共に」。 複数主格で の主語。 サンヘドリン(最高法院)の主要な構成員です。 (syn, ~と共に) + 与格は、ルカが他の共観福音書記者よりも好んで使う前置詞です。
ἐπέστησανσὺν
2ノット
- 原文 (NA28): そして、彼らは彼に言った、あなたがこれらのことをどのような権威によって行うべきか、またはどのような権威によってこの権威を与えたのかを、私たちに教えてください。
- 翻訳: 彼に向かって言った。 「これらのことを、あなたはどのような権威によって行っているのか、私たちに言いなさい。あるいは、この権威をあなたに与えたのは誰なのか」。
- 文法的解釈:
- καὶ εἶπαν λέγοντες πρὸς αὐτόν: 「そして、彼に向かって言いながら言った」。 (eipan) は (legō, 言う) のアオリスト能動直説法3人称複数(不規則変化)。 (legontes) は の現在能動分詞主格男性複数で、 の動作に付帯する状況を示します(冗長的な表現にも見えるが、ヘブライ語法の影響とも言われる)。 は「彼に向かって」。
εἶπανλέγωλέγοντεςλέγωεἶπανπρὸς αὐτόν
- Εἰπὸν ἡμῖν: 「私たちに言いなさい」。 (Eipon) は のアオリスト能動命令法2人称単数(不規則変化)。 (hēmin) は与格で間接目的語。
Εἰπὸνλέγωἡμῖν
- ἐν ποίᾳ ἐξουσίᾳ ταῦτα ποιεῖς: 「あなたはどのような権威によってこれらのことを行っているのか」。 間接疑問文ではなく、直接的な問い。 (en poia exousia) は「どのような権威において/によって」を示す前置詞句。 (poieis) は (poieō, 行う) の現在能動直説法2人称単数。 現在時制は、イエスの活動が継続していることを示唆します。 (tauta) は指示代名詞の中性複数対格で、「これらのこと」(教え、宮清めなど)を指します。
ἐν ποίᾳ ἐξουσίᾳποιεῖςποιέωταῦτα
- ἢ τίς ἐστιν ὁ δούς σοι τὴν ἐξουσίαν ταύτην: 「あるいは、この権威をあなたに与えたのは誰なのか」。 選択肢を示す (ē, あるいは) で始まるもう一つの問い。 (tis) は疑問代名詞主格男性単数。 「誰が」。 (estin) は (eimi, ~である) の現在直説法3人称単数。 (ho dous) は (didōmi, 与える) のアオリスト能動分詞主格男性単数で、冠詞 (ho) が付いて名詞的に「与えた者」という意味になります。 (soi) は与格で間接目的語。 「あなたに」。 (tēn exousian tautēn) は「この権威」で直接目的語。
ἢτίςἐστινεἰμίὁ δούςδίδωμιὁσοιτὴν ἐξουσίαν ταύτην
3ノット
- 原文 (NA28): 彼は彼らに答えて言った、また、あなたに一言尋ねると、あなたは私にこう言うでしょう。
- 翻訳: しかし、彼は答えて彼らに言った。 「私もあなたがたに一つのことを尋ねよう。 私に答えなさい。
- 文法的解釈:
- ἀποκριθεὶς δὲ εἶπεν πρὸς αὐτούς: 「しかし、答えて彼は彼らに言った」。 (apokritheis) は (apokrinomai, 答える) のアオリスト受動(デポネント動詞なので意味は能動)分詞主格男性単数。 分詞構文で、主文の に先行する動作を示します。 は「答えて言った」という定型句。 (de) は接続詞で、応答の転換を示します。
ἀποκριθεὶςἀποκρίνομαιεἶπενἀποκριθεὶς εἶπενδὲ
- Ἐρωτήσω ὑμᾶς κἀγὼ λόγον ἕνα: 「私もあなたがたに一つの言葉(事柄)を尋ねよう」。 (Erōtēsō) は (erōtaō, 尋ねる) の未来能動直説法1人称単数。 ルカは、イエスが質問する際に を好んで用います。 (kagō) は (kai egō, 私もまた) の短縮形 (クラシス)。 (logon hena) は「一つの言葉/問い/事柄」で、 の直接目的語。 (hymas) は対格で、尋ねる相手を示します( は二重対格を取ることがある)。
Ἐρωτήσωἐρωτάωἐρωτάωκἀγὼκαὶ ἐγώλόγον ἕναἘρωτήσωὑμᾶςἐρωτάω
- καὶ εἴπατέ μοι: 「そして、私に答えなさい」。 (eipate) は のアオリスト能動命令法2人称複数。 彼ら全員に対する命令。 (moi) は与格で間接目的語。
εἴπατέλέγωμοι
4ノット