はい、『ルカによる福音書』20章20-26節(納税問答)についての本文批評(Textual Criticism)上の主な論点・問題点を、学術的な観点から解説します。
1. 全体の伝承状況
この逸話(カエサルへの納税問答)は、マルコ12:13-17、マタイ22:15-22、ルカ20:20-26に共通して収録されている、いわゆる「共観資料」(triple tradition)です。したがって、各写本間や伝承過程における細かな異同がしばしば注目されます。
2. 個別節ごとの代表的なテキスト的争点
(1) 20:20「ενκαθέτους」の語形と配置
- ルカだけに出現する用語であり(共観の並行箇所にはない)、異写本間で「ἐνκαθετους」「ἐγκαθετους」とつづりが揺れる。
- 本文の配置や分詞「ὑποκρινομένους」との関係において、いくつか語順が異なる写本が存在するが、いずれも大きな意味の相違はなし。
(2) 20:21「ἐπ’ ἀληθείᾳ」の有無
- 有力写本の一部(D等西方型の伝承)では「ἐπ’ ἀληθείᾳ」の部分が省略される場合がある。
- また他の表現(「ἀληθῶς」)への変更・同義語置換も僅かにあるが、UBSやNAなど近代批判校訂版では本文に「ἐπ’ ἀληθείᾳ」をとる。
(3) 20:22 「ἡμῖν」など主語・人称の揺れ
- 「ἡμῖν」(私たちが)や「ἡμῖν ἢ μή」vs.「σοι ἢ οὐ(あなたにとって)」という形で、話者の意図や構造にかかわる小異がある。
- しかし多くの主要ギリシャ写本では一致が見られるため、大きな本文の揺らぎはない。
(4) 20:24「δηνάριον」の指定
- 「Δείξατέ μοι δηνάριον」(一枚のデナリオンを)でマタイ・マルコとの細部の差異(「τὸ νόμισμα τοῦ κήνσου」や「δηνάριον」だけ等)が見られるが、ルカ本文内で大きな異読はない。
3. 文脈・挿入句の問題