もちろんです。ルカ20:20–26「カエサルへの納税」段落の文化的背景と、その上での丁寧な解説を提供します。
Ⅰ. 文化的・歴史的背景
1. ローマの支配と人頭税
紀元1世紀のユダヤはローマ帝国の一属州であり、民衆は「ケンスス」(φόρος)と呼ばれる人頭税をカエサルに納める義務がありました。これは一人ひとりが課せられる均等税で、毎年銀貨(デナリオン)で納めていました。この税金は、ユダヤ人にとって単なる金銭的負担以上の意味がありました。
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宗教的問題
ローマ皇帝の肖像が刻まれた銀貨で納税することは、「偶像崇拝」や「異教の権威への服従」を連想させました。モーセの律法(十戒)は偶像崇拝を禁じるので、敬虔なユダヤ人たちには悩みどころだったのです。
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政治的問題
熱心党(ゼーロータイ)などの一部過激なユダヤ人はローマ支配そのものに反対し、「神以外への税(=納税)は認めない」と訴えていました。一方で、民衆はローマの軍事力や秩序維持による恩恵も(しぶしぶながら)受けていました。
2. イエスに対する罠
- 宗教指導層(ファリサイ派など)はイエスを「失言」に導き、ローマ当局への“扇動者”として訴えるか、あるいは民衆の支持を失わせようとします。
- 「納税せよ」と答えれば、ユダヤ民族の信仰や独立派からの反発を招く。
- 「納税するな」と答えれば、ローマへの反逆煽動になる。
3. 貨幣(デナリオン)
- 銀貨デナリオンは、当時ローマ皇帝の横顔と「神の子カエサル」などの銘が打たれていました。これ自体が宗教的・民族的アイデンティティの問題でした。
- 神殿や宗教上の支払い(半シェケル銀貨)は、こうした偶像のない純貨銀で要求されていました。
Ⅱ. 聖句の丁寧な解説と現代的含意
1. 【20-21節】
状況の設定と問いの意図
- 宗教指導層が「偽善的(hypokrinomenous=偽装して義人を装う)」にイエスに近づき、お世辞(「真に神の道を教えています…」)を言って油断を誘う。
- 問いに含まれる二面性:「税は国家(ローマ)への服従を象徴し、信仰と両立せず」という論争の核心を突いている。
2. 【22節】